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豆の主な機能性成分

コンテンツ

豆類には、食物繊維、サポニン、ポリフェノールなどの機能性成分が多く含まれており、最近、これらの健康に及ぼす効果が注目されています。

食物繊維

食物繊維の歴史

「食物繊維」は、英語のdietary fiberを直訳したもので、もともとはオーストラリアの医学・栄養学者ヒプスレー(Eben Hamilton Hipsley)が、食物中の繊維成分に妊娠中毒を予防する効果があると考え、1953年にこの仮説を公表した際に初めて用いた用語・概念です。
その後、1970年代に、イギリスの医学者トゥラウェル(Hugh Trowell)とバーキット(Dennis Burkitt)が、アフリカと西欧先進諸国の比較による食事内容と病気の関係についての疫学的調査研究の結果から、食物繊維という用語・概念を援用しつつ、その摂取量が少ないか又は欠乏した食事を長期間にわたり継続すると、単に便秘に止まらず大腸がんなど腸の病気の発生リスクが高くなるほか、糖尿病、動脈硬化、虚血性心疾患など様々な病気の発生にも関係するのではないかという仮説を提唱しました。
従来、食品中の難消化性成分は、各種栄養成分の利用効率を下げる栄養的に何ら価値のない物質と考えられてきましたが、トゥラウェルらにより食物繊維の生理作用に関する仮説が提唱されて以降、その有用性が次第に認められ、近年では、消化・吸収されない成分であるにもかかわらず、炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルに次ぐ「第6番目の栄養素」と称されるほど健康の維持増進に不可欠な成分と位置づけられ、その積極的摂取が推奨されています。国が主導する生活習慣病対策の主役として食物繊維が脚光を浴びているゆえんでもあります。

食物繊維の定義

dietary fiberという用語を世界で初めて使ったヒプスレーは、これを「植物の細胞壁の難消化性成分」と定義し、繊維(fiber)とはセルロース(cellulose)、ヘミセルロース(hemicellulose)及びリグニン(lignin)のこととしていました。
一方、食物繊維の生理作用に関する仮説を提唱したトゥラウェルらは、当初、dietary fiberを「植物の細胞壁に由来するヒトの消化管内で分解されない成分」とし、具体的な成分としてはセルロース、ヘミセルロース、ペクチン(pectin)及びリグニンを想定していました。しかし、その後、生理作用を示す成分が細胞壁とその他の部分のいずれに由来するのか特定するのは困難として「植物に由来する難消化性成分」と成分の範囲を拡大しました。
 食物繊維の捉え方については、その後も様々な考え方が示され、国、関係機関、研究者などにより様々な定義となっているため、国際機関において統一化に向けた検討が行われていますが、現時点では結論を得るに至っていません。
一方、日本では科学技術庁資源調査会(現在の文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会)が行った「四訂日本食品標準成分表」のフォローアップ作業の一環として平成4年11月に公表された「日本食品食物繊維成分表」において、「ヒトの消化酵素で消化されない食品中の難消化性成分の総体」との定義が示され、これが以後に改訂された累次の日本食品標準成分表でも踏襲され、一般にも受け入れられていますが、植物由来、炭水化物などの限定や天然物質と人工物質の区別も特段なされていないため、非常に広範囲な物質を含み得る概念規定となっています。

   

食物繊維の種類と成分

食物繊維は、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維に大別され、体内での作用はそれぞれ異なります。その成分には、天然物自体に含まれているもの、天然物から単純に抽出されたもののほか、天然物に加工処理を施して作られたもの、他の物質から化学的に合成されたものがあり、代表的な例は下の表のとおりです。

区分 成分名 説 明
不溶性食物繊維 セルロース 植物の細胞壁を構成する不溶性の非でんぷん性多糖類
ヘミセルロース 同上のセルロース以外の成分
リグニン 植物の細胞壁に含まれる高分子フェノール性化合物
キチン カニ等甲殻類の殻やキノコ等真菌類の細胞壁を構成する多糖類
キトサン キチンに加工処理を施して作った多糖類
水溶性食物繊維 ペクチン 植物の細胞を接着している粘性のある複合多糖類(不溶性もあり)
ガム質 植物分泌液、グアーまめ等に含まれる粘性のある多糖類
グルコマンナン こんにゃくに含まれる粘性のある多糖類
β-グルカン キノコ類や酵母類に含まれる粘性のある多糖類
イヌリン ごぼう、きくいも等のキク科植物の根に含まれる果糖の重合体
アガロース テングサ等の紅藻類に含まれる多糖類で、寒天の主成分
カラギーナン コットニー等の紅藻類に含まれる硫酸基を持つ多糖類
アルギン酸ナトリウム コンブ等の褐藻類等に含まれる粘性のある多糖類
フコイダイン コンブ、ワカメ、モズク等の褐藻類の粘質物を構成する多糖類
難消化性デキストリン でんぷんを加水分解して低分子化し、難消化性の成分を分離して精製したもの

食物繊維の効果
(不溶性食物繊維)

豆に多い不溶性食物繊維は、水に溶けず水を吸収して数倍にも膨れます。これが腸を刺激してぜん動運動を活発にすることに加え、便が結腸や直腸で容積が増大するとともに膨軟化して排便が促進されることから、便秘の予防に役立つと言われています。さらに、大腸の中の発がん物質の濃度を薄めるとともに、体外への排出速度を早めて腸内での滞留時間を短縮することから、大腸がんになる可能性が低下すると言われています。このことは、発がん物質だけでなくダイオキシンなど他の有害物質についても言え、同じように早期排出の効果があると考えられています。
また、不溶性食物繊維を多く含む食品は、咀嚼回数を増加させて唾液や胃液の分泌を促し、飲み込む食物の塊を大きくし、胃内での滞留時間も長くなることから、早食いを防ぐとともに満腹感が得られやすく、食べ過ぎ、肥満の防止に役立つと考えられています。
(水溶性食物繊維)
水溶性食物繊維は、体内で水分を抱え込んでドロッとした粘性を持ついわゆるゲル(gel)状になります。このため、咀嚼して飲み込んだ食物の粘性を高めて胃内での滞留時間を延ばすとともに、グルコースの拡散阻害、吸着などの作用によりその吸収速度を緩慢にする効果も相俟って、食後の急激な血糖値の上昇や血糖を抑制するホルモンであるインスリンの急速な消費を防ぎ、インスリン不足から生じる糖尿病の予防に役立つと考えられています。なお、食物の胃から小腸への移動遅延は満腹感をもたらすので、不溶性食物繊維と同様、肥満防止にも役立つと見られています。
また、水溶性食物繊維は、食物中のコレステロールの吸収を抑制するとともに、コレステロール由来の胆汁酸を吸着・排出してコレステロールの再吸収を阻害することなどにより、血清中コレステロールの上昇を抑制し、動脈硬化の予防に役立つと考えられています。

豆と食物繊維

食物繊維を多く含む食品の代表としてよく引き合いに出されるごぼう(ゆで)の100g中の食物繊維総量は6.1g、さつまいも(蒸し)は3.8gですが、あずきやいんげんまめ(ゆで)は12〜13gとごぼうの約2倍、さつまいもの約3倍もの食物繊維を含んでいます。その他の豆類もごぼうを凌いでおり、豆類は食品の中でも際だって食物繊維の多い食品と位置づけることができます。なお、豆類の食物繊維には、水溶性成分も一定程度含まれていますが、多くは不溶性成分です。

豆類と代表的食品の食物繊維の含有量
(可食部100g当たり 単位:g)

豆類と代表的食品の食物繊維の含有量(可食部100g当たり 単位:g)グラフ
  • グラフ左(グレーの部分):水溶性植物セ繊維の含有量、グラフ右(黄色の部分):不溶性植物繊維の吹含有量
  • 資料:「日本食品標準成分表2015年度版(七訂)」

また、豆には、ゆでると食物繊維の量が乾燥豆の時より大幅に増加するという興味深い性質があり、例えば、あずき、いんげんまめ、ひよこまめでは1.5〜1.6倍にも達します。これは、豆類に多く含まれるでんぷんの一部が、ゆでる過程で難消化性でんぷん(レジスタントスターチ:resistant starch)に変化するためです。難消化性になる理由については、一部はでんぷんが湿熱処理により消化酵素に抵抗性を持つ分子構造に変化することによりますが、その割合は数%と少なく、大部分は、子葉細胞内で糊化・膨潤化したでんぷん粒が、熱凝固したたんぱく質にコーティングされたうえ、個々の細胞の頑丈な細胞壁の中に閉じ込められた状態となり、消化酵素が物理的に作用し難くなっていることに起因します。なお、このような状態となった個々の子葉細胞は、「餡粒子」と呼ばれます。

ポリフェノール

酸素は生命の維持に不可欠なものですが、その一部は体内で強い酸化作用を持つ活性酸素に変化し、病原菌などから身体を守る役割を担う一方、細胞を損傷してがんや生活習慣病、老化など様々な病気の原因になると言われています。このため、ヒトには体内でスーパーオキシドディスムターゼ(superoxide dismutase; SOD)、カタラーゼ(catalase)、ペルオキシダーゼ(peroxidase)などの抗酸化酵素を作ることにより、過剰な活性酸素を除去する機能が備わっています。しかし、体内で抗酸化酵素を作り出す能力は加齢とともに低下していきます。
一方、食品には、体内で作られる抗酸化酵素と同じように活性酸素を除去する働きのある抗酸化成分を含むものがあります。抗酸化成分のうち代表的なものは、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化ビタミンやポリフェノール(polyphenol)で、これらを含む食品の積極的摂取は、抗酸化酵素の働きを補う効果が期待できるため、健康の維持増進に有意義と考えられています。
ポリフェノールは、分子構造上、フェノール基を複数持つ有機化合物の総称で、植物には赤・青・紫を発色するアントシアニン(anthocyanin)、白・黄を発色するフラボン(flavone)などの色素や、カテキン(catechin)、タンニン(tannin)などの苦み・渋み成分などとして含まれています。これらの物質は、強い抗酸化作用により、健康に悪影響を及ぼす活性酸素を除去し、動脈硬化や心臓病の予防、免疫力の増強、抗アレルギー作用、血管の保護、発がん物質の活性化抑制などの効果があると言われています。また、これら効果の他にも、各物質固有の様々な生理作用があることが分かってきています。

大豆イソフラボン

豆類に含まれているポリフェノールのうち、近年、最も話題になることが多いのはイソフラボン(isoflavone)類です。イソフラボン類はマメ科植物には多かれ少なかれ含まれていますが、これを桁違いに多く含み、食品として摂取する機会も多いのが大豆や豆腐、納豆、味噌などの大豆製品です。植物に含まれるイソフラボン類の大部分は、糖分子と結合した配糖体として存在していますが、食品として摂取すると腸内細菌の働きなどにより糖部分が分離し、強い生理作用を発揮する形態(これをアグリコン(aglycone)型と言う)となります。イソフラボン類に属するアグリコン型の成分で代表的なものは、ダイゼイン(daidzein)、ゲニステイン(genistein)、グリシテイン(glycitein)で、これらの配糖体型は、それぞれダイジン(daidzin)、ゲニスチン(genistin)、グリシチン(glycitin)です。
イソフラボン類は、女性ホルモンのエストロゲン(estrogen)と類似した化学構造を持っているため、女性ホルモン様の作用を示すとされ、のぼせ・ほてりなどの更年期障害の軽減、生活習慣などに起因する糖尿病(2型糖尿病)の改善、骨粗鬆症の予防、脂質代謝の改善などに有効と言われています。
なお、大豆や伝統的な大豆食品を日常の食生活の中で食べている分には、大豆イソフラボンの過剰摂取の心配はないものの、特定保健用食品による過剰摂取には注意が必要とされています。内閣府食品安全委員会の安全性評価結果に基づき、大豆イソフラボンの摂取目安量の上限はアグリコン換算値で70〜75 mg/日とされ、また、特定保健用食品として摂取する場合の上乗せ摂取量の上限値は30mg/日とされています。

 

あずき、いんげんまめなどに含まれるポリフェノール

あずき、いんげんまめなど大豆以外の豆類に関しては、これまでの研究成果として、抗酸化活性は種や品種によりかなり差があり、あずき、金時豆など濃い種皮色を持つ豆の方が高い抗酸化活性を示すことや、ポリフェノール含量と抗酸化活性との間には高い相関関係があり、抗酸化活性の大部分はポリフェノールに由来することなどが判明しています。
特にあずきに関しては研究が進んでおり、現在までに、高い抗酸化活性を示す主なポリフェノール成分はカテキングルコシド(catechin glucoside)、カテキン、ルチン(rutin)などで、その抗酸化作用は中国産より北海道産の方が高いこと、餡の抗酸化活性は煮熟粒の段階で原粒の約7割に低下し、さらに水さらしの工程を経た生餡の段階では約2割に低下することなどが明らかにされています。
また、生理調節機能については、ポリフェノールを含むあずき煮汁飲料のヒトによる飲用試験において、血清中性脂肪及びLDLコレステロールの低下傾向が見られたこと、ポリフェノールを含むあずきのエタノール抽出物の実験動物への投与試験において、血糖値、LDLコレステロール、収縮期血圧の上昇抑制効果が見られたことなどを報告した研究事例があります。
しかし、豆類のポリフェノールの詳細成分や固有の生理作用などについては、必ずしも十分に解明されているわけではなく、今後のさらなる研究の進展が期待されています。

各種豆類の抗酸化活性

抗酸化活性 グラフ

資料:平成15年度北海道農業試験会議資料
「小豆の抗酸化活性の変動要因と簡易評価技術」
  1. 北海道の2000年産の各種豆類に関する抗酸化活性測定事例
  2. 抗酸化活性の分析は、DPPH法による。

あずき煮汁飲料が血清中性脂肪に及ぼす影響

あずき煮汁飲料の効果 グラフ

資料:平成18年度北海道農業試験会議資料
「小豆の抗酸化成分による生理調整機能の解析」
  1. 健常者32名が小豆煮汁飲料を1日3 缶、4週間飲用した結果で、縦軸は飲用前の値を100とした時の相対値
  2. 図中の*印は、5%水準で有意差あり。

サポニン

あずきは、粉にして水と混ぜて攪拌すると泡立つため、奈良時代から「操豆」と呼ばれ、洗剤として使用されていました。江戸時代には、これを「シャボン」と呼んで、やはり洗剤として利用していました。サポニン(saponin)の語源は、このシャボンと同じで、洗剤を意味するラテン語のsap?に由来しています。豆には乾燥豆100g当たり3〜6gのサポニンが含まれており、特に大豆には多く含まれています。豆をゆでると大量の泡が浮き出てきますが、これはゆで汁にサポニンが溶出したことによるものです。このような泡は、渋み、苦み、えぐみのもとになるため、通常はいわゆる「アク」として除去されますが、実はこの中にサポニンが多く含まれています。
サポニンは、トリテルペン(triterpene)やステロイド(steroid)に糖が結合した配糖体と呼ばれる物質の一種で、よく泡立つ理由は、糖部分は親水性、非糖部分は疎水性と1分子内に異なる性質が共存し、これが緩やかな界面活性作用を示すためです。
昔から漢方では、サポニン含量の高い植物を、痰切り、咳止めなどの薬として利用してきましたが、一方でサポニンには細胞膜を壊す性質があり、血液に入ると赤血球を破壊する溶血作用があることも知られています。
最近では、サポニンによるコレステロール、過酸化脂質の低下作用、抗がん作用などが注目されていますが、ヒトにおける効果やその有効性、安全性に関しては、まだ十分な事実確認がなされるには至っておらず、さらなる知見の集積が期待されています。

レシチン

レシチン(lecithin)はリン脂質の一種で、ヒトの体内のリン脂質としては最も多く、細胞膜などの生体膜や脳、神経組織の構成成分となっています。その名前は、ギリシャ語で卵黄を意味するlekithosに由来し、鶏卵に多く含まれていますが、大豆もこれと並んでレシチンが豊富な食品の代表と言えます。
レシチンは、微細な油の粒を水の中に安定的に分散・浮遊させる乳化作用を持っており、例えば、油、酢、卵で作るマヨネーズが水と油に分離しないのは、卵黄中のレシチンの力を利用したものです。このような性質により、血中コレステロールや中性脂肪を低下させると言われていますが、ヒトにおける効果やその有効性に関しては、まだ十分な事実確認がなされるには至っておらず、さらなる知見の集積が期待されています。