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いんげんまめの産地における栽培方法

コンテンツ

日本では、乾燥豆の生産を目的としたいんげんまめの栽培は、ほとんど北海道で行われています。このため、ここでは北海道の産地における栽培方法について、概説することとします。

品種と草型によるタイプ分類

いんげんまめには、種皮の色や模様、豆の形や大きさが異なる様々な品種がありますが、品種による形態的な違いが大きく、草型により次のようなタイプに分類されます。

つる性

つるを出し、主茎頂部に花房を付けず、周囲のものに巻きつきながら伸長を続け、草丈は2.5~3mにも及びます。このため、ネマガリタケ等から作った「手竹(てだけ)」と呼ばれる支柱を立てて栽培します。虎豆類や大福(おおふく)類がこれに該当します。なお、いんげんまめとは種が異なる「べにばないんげん」に属している花豆類もほぼ同様な方法で栽培され、用途にも大差がないことから、上記のようなつる性のいんげんまめと併せて「高級菜豆」と総称されています(注:「菜豆(さいとう)」はいんげんまめの別称。)。

わい性

つるを出さず、主茎頂部に花房がつき、草丈は35~40cm程度で、栽培時に支柱は不要です。金時類全般やうずら類のうち、近年多く栽培されている「福うずら」がこれに該当します。

叢性

つるを出さず、主茎頂部に花房がつき、分枝して横に広がります。草丈は55~65cm程度で、栽培時に支柱は不要です。手亡(てぼう)類のうち、近年栽培されている「姫手亡」、「雪手亡」、「絹てぼう」がこれに該当します。

半つる性

つる性とわい性の中間タイプです。つる性と同じように、つるを出して主茎頂部に花房を付けませんが、茎長は100~120cm程度で、支柱を立てずに栽培します。このタイプは、手亡類のうち「大手亡」、「銀手亡」や、うずら類のうち「福粒中長(ふくりゅうちゅうなが)」などかつて多く栽培されていた品種にみられます。


北海道では、現在、以下の品種が優良品種に指定されています。

北海道のいんげんまめ(菜豆)の優良品種指定状況
区分 品種名 草型タイプ 主要特性
金時類 大正金時 わい性 早生、早熟、やや低収
福勝 わい性 早生、大粒、多収、インゲン黄化病抵抗性弱
福良金時 わい性 早生、早熟、大粒、多収、インゲン黄化病抵抗性弱
北海金時 わい性 早生、大粒、多収、年により熟期が遅れる
福寿金時 わい性 早生、大粒、多収、インゲン黄化病抵抗性極強
白金時類 福白金時 わい性 早生、大粒、多収、生育・収量やや不安定
手亡類 姫手亡 叢性 中生、耐冷性強、多収、炭そ病抵抗性弱
雪手亡 叢性 中生、炭そ病抵抗性強、白度強く外観品質優
絹てぼう 叢性 中生、炭そ病抵抗性強、粒餡加工適性優、収量やや劣
うずら類 福うずら わい性 早生、大粒、多収
福粒中長 半つる性 中生、大粒、多収、つるが出るため機械収穫困難
大福類 洞爺大福 つる性 中生、早熟、大粒、良質、耐病性弱
虎豆類 福虎豆 つる性 中生、食味良、多収、各種病害に弱い
花豆類* 大白花 つる性 晩生、大粒、多収、熟期が遅い
白花っ娘 つる性 晩生、極大粒、収量は大粒規格は優、全体ではやや劣

注:*は「いんげんまめ」とは別種の「べにばないんげん」

これらのうち、つる性タイプの高級菜豆は支柱を立てて栽培するため、栽培管理に手間がかかり、機械化が進んでいるその他のタイプとは栽培方法が異なり、産地も胆振(いぶり)管内の西胆振地域、網走管内の北見地域に限定されています。高級菜豆以外のいんげんまめの主産地は、十勝、網走、上川地域です。

わい性・叢性タイプの栽培方法(北海道)

北海道の産地における金時類、手亡類、うずら類などわい性、叢性タイプのいんげんまめに共通する栽培方法の概要をご紹介します。

栽培スケジュール概要

北海道のわい性・叢性タイプのいんげんまめ(金時、手亡、うずら類)の栽培暦 北海道のいんげんまめの栽培暦-金時類・うずら類(北海道)
北海道のいんげんまめの栽培暦-手亡類(北海道)

施肥・播種

いんげんまめは生育期間があずきより短く、遅播きをしても減収しにくいため、播種はあずきよりやや遅い5月下旬~6月上旬に行われるのが一般的です。

播種作業には、あずきと同様、プランター(総合施肥播種機)が用いられ、施肥、播種、覆土、鎮圧の各作業が1工程で行われます。

標準的な栽植様式は以下のとおりです。

北海道のいんげんまめ(わい性・叢性)の標準的な栽植様式
条間 株間 1株当たり播種粒数 10a当たり株数 覆土
60~66cm 20cm前後 2~3粒 約8,300株 3cm程度

10a当たり施肥量は、地帯や土壌により異なりますが、成分量でおおむね窒素2~4kg、燐酸9~18kg、カリ8~10kgの範囲です。

播種後、出芽するまで、手亡類で8~10日、その他は10~13日程度かかります。

中耕・除草等

雑草防除、土壌の水分保持力や通気性の改善、排水対策等の目的を兼ね、開花の7~10日前までに2~3回程度、うねの間をカルチベータ等の機械で浅く耕す中耕作業が行われます。金時類では、生育状態により6月下旬~7月上旬に5kg/10a程度(成分量)の窒素を追肥することがあります。

開花

金時類、うずら類は7月中旬頃から開花し始めます。花は2~3週間程度咲き続けて莢になります。手亡類は、これより10日程度遅れて開花が始まります。

開花期を迎えた金時豆
開花期を迎えた金時豆

金時豆の花
金時豆の花

病害虫防除

開花から成熟期までの約2か月弱の間、病害虫防除のため2~3回程度農薬を散布します。薬剤防除の対象となる主要病害虫は、以下のとおりです。

北海道のいんげんまめ(わい性・叢性)栽培における防除対象主要病害虫
区分 防除対象主要病害虫
病害 炭そ病、菌核病、灰色カビ病、黄化病(アブラムシが媒介)等
虫害 ジャガイモヒゲナガアブラムシ、アズキノメイガ、ハダニ類等

収穫

金時類は9月上旬頃、うずら類は9月中旬頃、手亡類では9月下旬頃に葉が黄色くなって落ち、莢が緑色から淡褐色に変わって乾燥し、成熟期となります。

北海道におけるいんげんまめの収穫体系には、次の3タイプがあります。

成登熟期を迎えた金時豆
成熟期を迎えた金時豆

●ニオ積み収穫体系
 成熟期(熟莢率が80%)以降、完熟期(同100%)程度までの間に、いんげんまめの株をビーンハーベスタ又はビーンカッタと呼ばれる豆刈機で刈り倒し(晴天が続く場合は刈り倒してから2~3日間地干しをし)、人力又はニオ積機により、「ニオ」と呼ばれる円筒形の山に積みあげ、2週間程度自然乾燥させた後、9月下旬~10月中旬頃に脱粒機で脱粒する方法です。

●ピックアップ収穫体系
  通常、金時類では完熟期から6日以内に、手亡類では完熟期から1週間以降に、いんげんまめの株を豆刈機で刈り倒した後(晴天が続く場合は刈り倒してから2~3日間地干しした後)、ピックアップスレッシャでほ場内を走行しながら、刈り倒し株を自動的に拾い上げて脱粒していく方法です。その後、収穫物を調製・集出荷施設の受け入れ水分に調製する必要がある場合は、静置式乾燥機による常温通風乾燥又は自然乾燥を行います。

●ダイレクト収穫体系
 ピックアップ収穫と同様の時期に、豆用コンバインでほ場内を走行しながら、いんげんまめの株の刈り取りと脱粒を1工程で同時に行う省力的な方法です。収穫物の水分調製が必要な場合は、ピックアップ収穫と同様の方法で乾燥を行います。

いんげんまめは莢が厚く、刈り倒してから脱粒可能になるまで乾燥させるには時間を要する上、この間に雨に当たると「色流れ」(種皮の着色不良)が発生しやすいため、ニオ積みによる乾燥が不可欠とされ、あずきと比べて収穫作業体系の省力化が遅れてきました。しかし、近年では、多大な労力を要するニオ積み作業が不要なピックアップ収穫体系が普及してきました。一方、さらに省力的なダイレクト収穫体系は、現在、開発・改良が進められつつありますが、豆の品質面での課題も残されており、まだ広く普及するには至っていません。

にお積みされた手亡
ニオ積みされた手亡

手亡の脱穀作業
手亡の脱粒作業

(本稿は「北海道立十勝農業試験場作物研究部小豆菜豆科Q&A」等を参考にして作成しました。)

つる性タイプの栽培方法(北海道)

北海道の産地における大福類、虎豆類、花豆類など、つる性タイプで栽培時に支柱が必要な「高級菜豆」に共通する栽培方法の概要をご紹介します。なお、北海道での花豆類の栽培は白花豆が主流ですが、一部で紫花豆(在来種)の栽培もみられます。

栽培スケジュール概要

北海道のつる性タイプのいんげんまめ(大福、虎豆、花豆類)の栽培暦 北海道のつる性タイプのいんげんまめの栽培暦-大福類(北海道)
北海道のつる性タイプのいんげんまめの栽培暦-虎豆類(北海道)
北海道のつる性タイプのいんげんまめの栽培暦-花豆類(北海道)

施肥・播種

高級菜豆のうち、大福類や花豆類の播種は5月中下旬に行われ、虎豆類はこれらより1週間程度遅播されることが多いようです。高級菜豆は株間が広い上、支柱立て等の播種後の作業を容易に行うため株間を正確にとる必要があるため、播種は手作業で行い、その後、機械で覆土、鎮圧を行います。

栽植様式は産地や栽培農家によりバラツキが大きいようですが、標準的な目安は以下のとおりです。

北海道の高級菜豆の標準的な栽植様式
豆の種類 条間 株間 1株当たり播種株数 10a当たり株数
大福類 72cm 66~72cm 2粒 1,900~2,100株
虎豆類 66cm 60~66cm 2粒 2,200~2,500株
花豆類 72~75cm 72~75cm 2粒 1,800~1,900株

10a当たり施肥量(基肥)は、地帯や土壌により異なりますが、おおむね以下のとおりです。

北海道の高級菜豆の標準的な施肥量
  N(窒素) P(燐酸) K(カリ)
10a当たり成分量 2.5~4kg 10~18kg 8~10kg

播種後、2週間程度で出芽してきます。

播種後の鎮圧作業(白花豆)*
播種後の鎮圧作業(白花豆)*

支柱立て作業(虎豆)*
支柱立て作業(虎豆)*

管理作業

雑草の除去・抑制、土壌通気性の改善、地温上昇等の目的を兼ね、出芽後5日目頃に畦間サブソイラ等により中耕を行います。

その後、手竹と呼ばれる支柱を立てます(支柱立て)。支柱は、畦を跨いで生育してきた豆の外側に立て、4本1組にして上端部分をテープで結束して固定します(竹しばり)。

支柱を立てたら、つるが支柱にうまく巻き付きながら伸長するよう誘引作業を行います(つる上げ)。

出芽後15日目頃から急激に伸長スピードが速まるため、支柱立て、つる上げ作業は、適期を逃さないように行います。

生育量に応じ、開花盛期(7月下旬~8月上旬)に4kg/10a程度(成分量)の窒素を追肥します。

生育初期の白花豆
  生育初期の白花豆

白花豆の草姿
白花豆の草姿


開花

つる性いんげんまめである大福類及び虎豆類は、7月中下旬に開花期を迎えます。花は数週間にわたり咲き続け、自家受精をして順次結莢してゆきます。開花総数に対する莢まで生育した花の数の割合(結莢率)は15%前後といわれてています。

べにばないんげんである花豆類は、7月中旬に開花期を迎え、花は1か月以上咲き続けます。花豆類は、花の構造上、葯が柱頭の下部に位置していて自家受精しにくいため、主に蜂等の受粉者により他家受精するとされています。また、非常に多くの花をつけますが、開花・結実期の気温が30℃を超えない栽培適地(寒地、高冷地)でも結莢率は5%程度と非常に低く、その他の地域ではほとんど結莢しません。

大福豆の花
大福豆の花

虎豆の花
虎豆の花

白花豆の花
白花豆の花

病害虫防除

7月下旬~8月下旬までの間、病害虫防除のため農薬を散布します。薬剤防除の対象となる主要病害虫は、以下のとおりです。

北海道の高級菜豆栽培における防除対象主要病害虫
区分 防除対象主要病害虫
病害 菌核病、灰色カビ病、炭そ病等
虫害 タネバエ、アズキノメイガ等

収穫

当初は緑色だった莢は、成熟期が近づくと淡緑色,から黄色となり、さらに褐色へと変化していきます。熟莢率が70~80%に達する頃が成熟期です。

大福類や虎豆類は、成熟期(9月上旬~下旬)に達した時点で、支柱に巻きついたままの状態で茎を地際から切断(根切り)します。一方、花豆類は、初霜までに株全体が成熟期に達することはむしろ稀で、生育期間中に霜にあうと豆の変色等品質が低下するため、成熟期に達していなくても初霜の約2週間前(9月下旬)に根切りを行って生育を終了させます。

根切り後の乾燥方法は、豆の種類、地域、労働力事情等により様々です。大粒で乾燥しにくい花豆類は、根切りして数日間そのままの状態で予乾した後、支柱から茎をはずしてニオ積み乾燥させる方法か、支柱ごと井桁状に積み上げて乾燥させた後、脱粒作業時に茎を支柱からはずす方法をとることが多いようです。一方、虎豆類や大福類では、手間のかかるニオ積み等を省略し、収穫物を支柱ごと集め、束にして縦置きで乾燥させる方法か、根切り後、ほ場でそのままの状態で乾燥させ、脱粒作業の直前に支柱ごと集める方法をとることが多く、いずれの場合も、支柱はずしは脱粒時に同時並行して行います。

乾燥後、ビーンスレッシャを用いて脱粒作業を行いますが、特に大粒の花豆類の場合は、割れ粒や皮切れ粒の発生による商品価値の低下を防ぐため、スレッシャの回転数を十分に調整して行います。

成熟期を迎えた大福豆
成熟期を迎えた大福豆

ニオ積み作業(白花豆)*
ニオ積み作業(白花豆)*


(本稿は、「西胆振における“高級菜豆”の生産と流通」(昭和48年3月、農林省函館統計情報事務所伊達出張所)、「高級菜豆の栽培技術」(昭和62年3月、留辺蕊町・網走支庁北見地区農業改良普及所)、「べにばないんげんの栽培」(2008年1月、網走農業改良普及センター本所)等を参考にして作成しました。また、*印の写真は、北海道農政部農政課の「農業・農村リアル素材提供事業」によるフリー素材画像を利用しました。)